黒い革張りの椅子に一人の男が泰然と座っていた。
傍らには、彼の秘書が無言で控えている。
[前夜の冠]
「田村崎、まん太の今日の様子は?」
萬純に命じられ、田村崎の指が再生スイッチへと伸ばされた。
「これが本日分のテープです、会長。」
小さな音がして、不快なノイズ混じりの会話が流れ出す。
二人は黙ってそれを聞いていたが、途中で萬純がそれを遮った。
「もういい。止めろ。」
萬純は随分と苛立った様子だったが、構わず田村崎は事務的にその言葉に従った。
「もう、見当はついているのだろう?」
田村崎は頷くと、持っていた資料を机の上に広げた。
「文献や、調べた情報を検討した結果、」
説明を始めようとした田村崎を手で遮って、資料には目もくれず萬純は先を促した。
先程広げたばかりの資料を手早く片付けながら、田村崎は答えた。
「……その場所は、ムー大陸とみてほぼ間違いないと思います。」
萬純は眉を顰めた。
俄かに考え込むような素振りを見せたが、すぐに顔を上げ、田村崎を呼ぶ。
「緑。」
田村崎は頷き、一切を了承したように、僅かに態度を変えた。
萬純が、田村崎を名前で呼ぶときに理由は一つしかない。
「……どうなさいますか、萬純様?」
だから田村崎も、いつものように役職名で萬純を呼ぶのを止める。
「咥えろ。」
無言で、命令に従う。
萬純の足元に跪くと、机の下に潜り込み慣れた手つきでズボンの前を寛げる。
まだなんの反応も示していない萬純のものを取り出し、軽く握った。
その間も、萬純は机の上に積まれている書類に目を通す。
そして、やはり気になるのか先程のテープをもう一度再生し始めた。
田村崎はまずそれがある程度の硬さになるまで、握った掌を上下する。
その度に少しずつ、それは目の前で勃ちあがっていく。
しばらくの後、ゆっくりと舌を這わせ始めた。
少しずつ位置を変えながらねっとりと下から上へと舌を進めていく。
田村崎は首を傾け、全体を濡らすようにそれを何度も繰り返した。
さらに先端を軽く咥えこみ、滲み始めていた透明な液体を音を立てて吸い上げる。
段々と口内深くそれを導き、噎せることなく喉の奥でそれを受け入れた。
その間も舌を巧みに使い続ける。
そのうちに、萬純が書類を捲る音が止まった。
いつの間にか盗聴テープの会話も終わり、耳障りなノイズだけが聞こえてくる。
「……もういい。そろそろ来い。」
田村崎は一度吐息を漏らすと、スーツを脱ぐ。ネクタイを解きカッターの胸元を開ける。
同じように、萬純もネクタイも僅かに緩め上着を脱いだ。
下着を下ろし、田村崎は自らのものにスキンを被せる。目を伏せて、自らの指を口元に運び唾液を絡めた。
そしてほんの数度、自らの後孔に指を動かし広げるように塗る。
たったそれだけで萬純と向かい合うように上に乗り、腰を下ろし始めた。
息を吐きながら、ゆっくりと体内に萬純のそれを埋めていく。
上手く体の力を抜くと、最奥まで全てを咥えこんだ。
「っあ……萬純さ……。」
一息つく間すら無く、田村崎は萬純のものを締めつけながら腰を上下に動かし始める。
その時、机の上の電話が鳴った。
「構わん、続けろ。」
それだけ言い放つと、萬純はその電話を取る。
「何だ。」
田村崎は言われた通り、声を殺しながら腰を動かし続けた。
萬純の声と、聞こえてくる電話の声は頭の中を素通りしていく。
その時、田村崎の中に振動が走った。
「……!」
すんでのところで、田村崎は息を呑んだ。
萬純が珍しく、自ら更に深く突き上げてくる。
その間も電話は続き、中を抉られるたび田村崎は椅子の肘掛に爪を立てた。
普段は田村崎にさせているだけの萬純だが、今日はこの状況を愉しんでいるのだろう。
電話の相手に相槌を打ちながら、田村崎を攻めてくる。
田村崎は目を閉じ、躯を反らした。
いつもより強く中は収縮を繰り返し、萬純をものを締めつけている。
やがて、用が済んだのか萬純が電話を切った。
その途端、押さえ切れなかったように田村崎が喘いだ。
「はぁ……んぁ……。」
「今日はまた随分とよさそうだな、緑?」
堪えきれないかのように、田村崎は何度か頷いた。
珍しく見る田村崎の乱れた姿に、萬純も煽られていた。
段々と激しくなる田村崎の動きに合わせるように、強く奥まで貫くように動かす。
「くっ……ん……萬純様……ぁ。」
何度か強く脈打った萬純のものが、田村崎の中に精を吐く。
それに引きずられるように、田村崎も自らの欲望を放った。
肩で息をしながら田村崎は躯を離し、萬純の額の汗や、未だ濡れている部分を拭った。
その後手早く自らの後処理を済ませる。
その間に萬純はネクタイを締めなおし着衣を整える。
そして、乱れたままの黒髪を手で軽く直し、急いで服を着こむ田村崎に問う。
「明日の予定はどうなっている、田村崎」
田村崎は濡れた口元を指先で軽く拭うと、極めて事務的な口調で答えた。
「予定通り、アメリカへと向かいます。会長の指示がありました戦力分の戦闘員の配備は既に完了しました。」
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